ななころびわなびA

本気でラノベ作家になりたいんです!

ブログ小説「モブの方の桶川君。」第0話

芹澤です。夏休み、いかがお過ごしでしょうか。

「チカの地下冒険とダイヤモンド王国のひみつ」「黒猫とアリス」につづいて、カクヨムで連載していた「モブの方の桶川君。~じつはスゴいんです」をお送りします。

 

本作はバスケ&恋愛小説(ただしバスケは素人)として書きました(イラストのような猫は出ません)。

ファミ通文庫大賞に応募中で、今月末に最終候補作が発表される予定です。

 

【あらすじ】

 バレンタインデーの放課後。
とある恒例行事をこなしていたおれは彼女と鉢合わせした。
学年一の美少女にして生徒会副会長の間宮緋色である。

「せっかくだし付き合っちゃおうか♪」

「断る」

だって知ってんだぞ。
超モテ男の幼なじみに今日こそ告白しようとしていたこと。
そんで、告白する前に失恋したことも。

――なんでそんなこと知っているのかって?
間宮のことが好きだからに決まってんだろ。ばか。

 

 

 

 

【第0話 プロローグ】


 くらくらと、視界が揺れる。

 

 まぶしい。
 どうしておれは床に倒れ込んで天井のライトとにらめっこしているんだっけ。

 

 頭が混乱している。
 相手チームのイチかバチかの最後の一投がゴールリングに弾かれた直後にブザーが鳴り響いたところまでは覚えている。

 

「優勝おめでとう、キャプテン」

 

 視界に入ったのは大きな手のひら。青いユニフォームの四番が見える
 その手をとって上体を起こすと、割れんばかりの歓声が鼓膜を突き破って脳みそを揺さぶった。

 見渡す限りの人、人、人。
 ちらつく横断幕。

 

 あぁおれ、勝ったんだ。

 

「ほらキャプテン、ぼーっとしてないで挨拶」

 

 乱暴に背中を押されて青いユニフォームの相手チームと向き合った。
 みんな目が赤い。声を出さずに泣いている。
 ありがとうございました。と言葉にしても腹に力が入らない。

 終わったんだ。優勝した。強豪と言われながらも優勝からは何年も遠ざかっていた朔丘中央学園《うち》が、先輩たちが成し遂げられなかった全中優勝を果たした。

 ここから見える景色を、仲間たちの喜ぶ顔を、おっかない監督のうれし涙をずっと見たいと思っていたのに。

 なんでだろ。

 自分の中をどれだけ探しても燃えカスしか残ってないや。

 

「桶川キャプテン、インタービューいいですか? いまの気持ちは?」

 

 いつの間にかマイクとカメラを向けられていた。
 相手チームとちゃんと握手したのかも思い出せないのに。

 

「桶川君?」

「あ……はい、最高です。ありがとうございます」

 

 なにが「最高」なんだろう。
 なにが「ありがとう」なんだろう。
 なにがなんだか分からないけど燃えカスを押し出すように言葉が出てきた。

 

「最大の目的である全中優勝を果たしました。来年は高校生ですね。次はなにを目指しますか?」

「つぎ、です、か……?」

 

 言葉が途切れ途切れになる。

 

 次はなにをする?
 なにをしよう?
 なにがしたいんだおれは?

 

 今までずっとボールとゴールしか見ていなかった。
 その先になにがあるかなんて考えたことがない。

 もうかき集める燃えカスすらない。

 

「ゆうとー、しっかりー」
「おにいちゃんがんばー」
「キャプテンふぁいとー」

 

 なかなか二の句が継げないのを感極まっているとでも思ったのか、二階の応援席から声援が飛んできた。大丈夫、とばかりに手を挙げると拍手と歓声が響き渡る。

 

 すると応援席の中でぽつんと一つだけ空いた席に目がいった。
 周りは朔中の生徒や保護者でぎっしりなのになぜかそこだけ空席になっている。

 きっと偶々《たまたま》だろうけど、たとえばあそこに大げさなくらい手を振ってくれる女の子がいたらいいな、と思った。

 

「……つぎは、恋がしたいです」

 「はい?」

 

 インタビュアーが二回瞬きした。

 

「バスケはもう十分頑張りました。だから、その人のためなら死んでもいいと思えるような、さいこうの、恋がしたいです」